福井の司法書士 永田司法書士事務所 相続・遺言・不動産登記・商業登記

資料室

裁判手続きのIT化

平成30年3月、「裁判手続き等のIT化検討委員会」の検討が終了し、4月初めに検討化委員会のとりまとめが公表されている。

政府は、訴訟の全面的なIT化を目指す。
まずは、民事訴訟一般を念頭に置く。
非訟事件や家事事件は将来検討する。
例えば、訴状提出は24時間365日利用可能、手数料は電子決済。送達も電子化。
訴訟記録にアクセスもできるが、当事者とその代理人等に限定される。
弁護士事務所や企業の会議室で証人尋問実施。
判決書の公開は今後の課題。

問題点は、IT化で裁判を受ける権利が侵害されてはならない。弱者・本人訴訟等。

2022年頃から開始をめざす。
第1ステージ 現行法のもとでのウエイブ会議・テレビ会議等の運用
第2ステージ 関係法令の整備
第3ステージ システム・ITサポート等の環境整備

現在、電話会議がよく利用されています。例えば、裁判所は大阪、当事者代理人は福井と神戸、期日にすべて電話で対応する。その影響で移送事件が少なくなっている。

諸外国の裁判IT手続きとは異なるところもあり、紆余曲折があるでしょう。

反貧困キャラバン2013福井実行委員会

県社 共同募金008

※画像をクリックすると拡大表示されます。

講演会ではありませんが、表記発表を行いました。


反貧困キャラバン2013福井実行委員会の代表永田です。

{団体の概要}
反貧困キャラバン2013福井実行委員会とは、「地域から餓死・孤独死を生まないために、人間らしい生活と、労働の保障を求めて、つながろう!」をスローガンに、貧困問題の解決に取り組む弁護士、司法書士や社会福祉士、自死遺族の会、労働者、医療関係者などの福井県内の民間人が呼び掛けて結成された、「貧困問題の解決を目指した啓発及び困窮者支援事業を行うボランティア団体」です。

昨年度も、この活動を実施しましたが、本年度は、4月29日の第1回実行委員会開催から7月3日の実行委員会まで、すでに6回の委員会を開催しています。このあとも、毎月実行委員会を開催する予定です。実行委員会には、毎回いろんな団体から約10人が参加しています。
去る6月29日には、プレ企画「命の最終ライン 生活保護の切り捨てを許さない!」を実施しています。

{事業の必要性と実施方法}
今社会全体に貧困が蔓延しています。福井県は日本一幸せな県と言われています。しかし、実態は、不況で職に就けない人、学校に行けない人、生まれつきの障害を持った人、慢性的病気をもった人、明日の食事がない人、一人暮らしのお世話をして疲れきっている人等たくさんの困窮者がおられます。この人たちは、自分の責任というより生まれつき、また社会問題により貧困となった人も多くおられます。
内閣府まとめによると、福井県内の昨年の自殺者数は、前年比12人増の166人でした。年代別でみると、60代が前年比5人増しの30人、70代が同9人増しの33人で高齢者が増えています。

貧困問題は、悩んでいる人一人の問題ではなく社会全体の問題です。
そして、困窮者は、自分たちの困窮状態を自ら社会に訴えることができないのです。
制度上でも、例えば、今年の8月から生活保護基準の大幅な引き下げが行われます。

まず私たち実行委員会は、貧困の実態を、当事者から生の声を聞いて、貧困問題を私たちの共通認識とする必要があると思います。
それには、まず声なき声を聞くことが大事です。ここに声なき人がいると気付き、声をかける、話を聞く、一緒に歩く。相談できる人を探し出せればよい。そして、世の中の人々に貧困問題がどのように私たちの個々の個人の尊厳にかかわるかを訴えます。
具体的は、当事者の発言を聞く講演会を開催します。講演に先立ち、反貧困キャラバン演奏を行います。
また、貧困者に対し、医療関係者、法律家、自死遺族の会等が相談に応じます。心の緊急避難所を案内する、さえられる人を紹介するが目標です。
9月29日から10月2日には、反貧困をテーマに全国を巡る反貧困キャラバンカーを福井県内全域で走らせ、貧困問題を訴えます。

{その事業の予想される効果や到達目標}
この活動により、貧困問題を抱える当事者が孤立や疎外を免れ、またその支援者のネットワークが形成されます。

薪の炎は、1本では勢いよく燃えません。薪は何本もくべると大きいな炎になります。
まず、われわれ一人一人が貧困問題について燃えることです。
そして、一本一本火をつける。大きな輪を作りたいと思います。

この活動は、次年度も実施する予定です。貧困問題は、沈静化するどころか、ますます格差が広がり大きな社会問題となるでしょう。


本人確認・意思確認

平成25年3月6日午後2時50分~4時30分

○○会業務研修会

「本人確認と意思確認」

                         司法書士 永田廣次
                    
問題

「宅地建物取引業の佐藤さんは、昔から付き合いのある田中一郎さんから、次のような依頼を受けました。
 福井市順化2丁目の土地を仲介人として売却してほしい。
この土地は、亡父田中正さんと母田中春代さん及び田中一郎さんの3人共有ですが、亡父田中正は3年前に死亡しました。しかし、未だ相続登記はできていません。母田中春代さんは、5年ほど前までこの土地の上に住宅を建てて住んでいましたが、現在建物も解体し、施設に入居しています。田中一郎さんが施設に行っても、母田中春代さんは、長男の田中一郎さんが来たことはどうにかわかりますが、自分の歳も言えません。また、3人共有の権利証は見当たりませんし、買主の予定である鈴木二郎さんは、仕事が忙しく決済に出れないようです。どのような手続きを踏んだらいいでしょうか?」


第1 成年後見制度

この問題はまず成年後見制度の理解が必要です。
福井県内には約4万人の成年後見対象者がおられます。
平成12年以降1700件の申立てがあった。

Q1 「亡田中正さんの相続登記が終了していません。相続人である母田中春代さんは、判断能力がないようです。どのように相続登記を行ったらよいでしょうか?」

1 意思能力のない法律行為は無効である。本件では遺言書がないとして、通常の遺産分割協議を行うとする。
  亡田中正さんの法定相続人は、春代さんと正さんです。相続人である母田中春代さんが遺産分割協議に関わるには、成年後見制度を利用しなければならない。


2 成年後見制度の種類

法定後見制度
  成年後見類型
  保佐類型
  補助類型
任意後見制度


3 申立等

4親等以内の親族に申立権がある。申立は本人の同意不用。

医師の診断書を添付
家庭裁判所は、本人の能力につき原則鑑定する

成年後見人には候補者が選任されることが多い
     
審判は、家族間に問題なければ早いと約1ヶ月で行われる。
家族間で争いがあると第3者後見(弁護士・司法書士・社会福祉士等)となる。
成年後見人等に選任されると登記される。
登記事項証明書は、審判が確定するのに2週間、その後裁判所の嘱託登記が行われさらに約2週間要します。

成年後見人に選任されると、本人の財産処分権限が与えられる
 成年後見人等が本人の財産を処分してもそのお金は本人のお金です。
  本人のお金を後見人が自分のために使えば横領
本人が亡くなれば、相続問題
司法書士による後見人の申立て費用は通常10万円ぐらいであろう。
  但し、鑑定費用は別途6万ほどかかる。

  被後見人田中春代さんに後見人田中一郎(長男)さんが選任されました。


4 遺産分割協議と特別代理人
  母田中春代さんの後見人に、第3者の例えば司法書士が選任されれば問題ない。司法書士と、田中一郎さんが遺産分割協議すれば足りる。
  しかし、通常、親族・長男である田中一郎さんが母田中春代さんの後見人に選任される。そうすると、遺産分割協議において、田中一郎さんは自分の相続人としての立場と母田中春代さんの成年後見人としての立場とで利害が反することになり、いわゆる特別利害関係人として遺産分割協議に関われない。その場合家庭裁判所に、遺産分割協議のための田中春代さんの特別代理人を選任する手続きが必要となる。
  特別代理人は、利害のない親族でもよく、通常候補者を特別代理人選任申立書に記載する。
  但し、事前に候補者の承諾を得ておく必要がある。
  特別代理人選任申立書には、遺産分割協議の案を添付する。その中味において被後見人である田中春代さんの持分をゼロにするのは難しい。相続分に見合う代わりの預金を与えるつまり代償分割協議をすることが必要である。

  司法書士による特別代理人選任申立ては、通常3万円ほどである。

  遺産分割協議が整い、相続登記が完了し、亡父田中正持分は、田中一郎さんが相続取得しました。


  5 居住用不動産売却と家庭裁判所の許可
 民法859条の3は「成年後見人は、被後見人に代わって、その居住用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定めている。
 これは本人の身上監護に影響するから許可とした。
この許可を得ないでした後見人の処分行為は無効となる。

居住用不動産とは、
① 本人が生活の本拠として現に居住している建物またはその敷地
② 現在本人は居住していないが、過去に本人が生活の本拠とした実態 のある建物またはその敷地
③ 将来本人の居住用として利用する予定のある建物・敷地
 そして、本人の居住の有無は、本人の生活の実態を考慮(事実上長く居住していた)を考慮に入れ実体的に判断する。
本人が施設に入居し、住民票を移転していても、その建物・土地に住みたい意思や願望を持っていれば居住用に該当する。

   手続きには、約2週間を要する。

居住用不動産売却許可の審判が得られました。

  6 本人確認情報
  本件では、3人名義の権利証がない。権利証のない事例は、共有名義、家庭内不和の場合が多い。
  亡田中正名義は今回の相続登記により、田中一郎への田中正持分全部移転登記完了による登記識別情報がある。
    
田中春代持分と田中一郎持分につき、司法書士が本人確認情報を作成する。その中味は、なぜ権利証がないのか、この不動産取得時の経過、現在の様子等、取得時の売買契約書や固定資産評価証明書、運転免許証等本人確認のための書面等を基に本人に面談して作成する。

その際、写真付きでない公的証明書は、2通必要です。
    
  時間と費用がかかります。


第2 本人確認と意思確認

  ようやく決済の準備が整いました。
  
1 定義(司法書士用)

  本人確認とは、司法書士が、業務を行なうに際して、依頼者及びその代理人等の公的証明等により本人特定事項を確認して本人の実在性と書類との同一性の確認をすること並びに依頼者が依頼された事務の適格な当事者であることの確認をすることをいいます。
  仮名取引やなりすまし取引の防止に資する

  意思確認とは、依頼内容意思の確認と司法書士への委任意思を確認することをいいます。意思能力・事実聴取・手続き選択・手続き依頼の意思を確認します。(犯罪収益移転防止法にはない)

本人確認、意思確認により、紛争予防(法律的有効性の確保)と委任契約が成立する。

本件では買主の鈴木二郎さんが仕事が忙しく、決済に出て来れない。
  代わりに、鈴木二郎さんの妻が決済に来るという。司法書士はどうするか。


Q1 「宅地取引決済に際して、本人確認・意思確認は売主とともに買主についても必要ですか? その際、何を持参していただけばいいでしょうか?」

買主についても、本人確認・意思確認が必要です。
住民票、認印の他本人確認書類が必要です。
本人確認書類としては、有効期限内の公的証明書、例えば、運転免許証、住民基本台帳カード、パスポート等の提示を求められています。平成25年4月1日から犯罪収益移転防止法の改正により、運転経歴証明書、在留カードや特別永住者証明書も規定されました。
その際、免許証のコピーをいただきます。本来原本の提示でよいのです が、運転免許証の内容を記録するには時間がかかり又誤りが生ずるので、免許証のコピーをいただきます。ご協力ください。

決済当日仕事が忙しいため出頭できない場合は、事前に司法書士が本人 確認・意思確認することでもよいです。


Q2 「妻が、依頼者である夫所有の宅地売買決済に出頭しました。決済できるでしょうか?」

  できる場合と出来ない場合があります。

  本人確認は、夫と妻に必要です。
夫の本人確認をどのようにするかですが、一般的には、事前に司法書 士が夫と面談し免許証原本の提示とそのコピーをいただいておくのが通常の方法です。
又、例外として、夫については、あらかじめ夫の免許証のコピーをい  ただき、その住所へ転送不要扱いの書留郵便により委任状を送付しておき、この委任状(実印押捺)と印鑑証明書を決済当日妻から収得する方法もあります。
この例外の場合、免許証の住所が実際居住しているところと異なれば、 郵便配達されませんから決済できません。

 意思確認は、妻又は夫と妻。依頼者である夫の意思を疑うに足りる事情があるときは夫の意思確認をしなければならない。
  

司法書士としての職責上から言えば、依頼の内容及び意思確認も必要 であり、妻が夫の代理人として日常家事債務でない不動産取引について登記手続きを代行することは特別授権が必要です。司法書士は、夫から妻への特別授権を認定できないので、夫と面談し夫の意思確認をすることが原則です。最低限夫に電話をかけ意思を確認することが必要です。そして、妻が夫のために取引の任にあたっていると認めた理由を記録しなければなりません。

これらができないときは、決済できません。


Q3 「売主さんは、高齢のため免許証を持っていません。何を決済の場に持参すればよいでしょうか?」

    権利証、印鑑証明書、実印、本人確認書類
本人確認書類としては、写真付の公的証明書が理想です。パスポートが あればよいですが、なければ住民基本台帳カードを市町の窓口であらためてつくられるのもいいです。
写真付以外のものでは、官公庁の発行する公的証明書、例えば国民後期高齢者医療保険証、介護保険証、国民年金手帳等を持参してください。但し、いずれか2点以上を持参していただくとありがたいです。

 

第3 必要書類

本件において、関係者は何を用意すればよいのでしょうか?

 1 成年後見申立

  ① 申立人の戸籍謄本
    申立て人の運転免許証

② 本人の戸籍謄本
    本人の住民票or戸籍の附票
    本人の登記事項証明書(登記されていないことの証明書)
    診断書と診断書の附票
    (愛護手帳(判定1・2)療育手帳(判定A)の交付があればそのコピーの提出で足りる。)
    不動産全部事項証明書
    預貯金通帳のコピー(証書・保険証書)
    負債資料のコピー
    本人の収支についての資料

  ③ 成年後見人候補者の本籍記載ある住民票or戸籍の附票
    成年後見候補者の身分証明書
      

 2 特別代理人申立

   申立人(後見人)の戸籍謄本(提出済みの戸籍謄本と変更なければ不要)
   被後見人の戸籍謄本(提出済みの戸籍謄本と変更なければ不要)
   特別代理人候補者戸籍謄本
   特別代理人候補者住民票
   (特別代理人候補者の承諾書・後見登記がないことの証明・身分証明書)
   被相続人の除籍謄本
   遺産分割協議案
   不動産登記事項証明書


 3 相続登記

   遺産分割協議書
   後見人登記事項証明書
   特別代理人選任審判書
   被相続人の15歳ぐらいからの除籍謄本
   各相続人の戸籍抄本
   各相続人の本籍記載ある住民票
   各相続人の印鑑証明書
   相続登記申請人の運転免許証


 4 居住用不動産処分許可申立
   
   申立人(後見人)の住民票(本籍記載)(提出済みの書面と変更なければ不要)
   本人の住民票(本籍記載)(提出済みの書面と変更なければ不要)
   処分する不動産の登記事項証明書
   売買契約書
   路線価図
   評価証明書
固定資産税・都市計画税 納税通知書
   
 
 5 売買移転登記(決済) 

① 売主田中一郎の必要書面
   田中一郎名義の相続による登記識別情報
   田中一郎の本人確認情報
(田中一郎の運転免許証(有効期限内)、本物件の課税証明書、本物件の売買契約書)
   田中一郎の印鑑証明書(発行後3ケ月以内)
   田中一郎の実印

  ② 売主田中春代の必要書類
田中春代の本人確認情報(田中一郎の運転免許証、課税証明書、従前売買契約書等)
   田中春代の成年後見登記事項証明書
   田中一郎の成年後見登記事項証明書
   田中一郎の運転免許証
   田中一郎の印鑑証明書
   居住用不動産売却許可書

  ③ その他(売主)
田中春代の住所移転があれば、前住所記載のある住民票
   
   売買契約書と領収書
   登記原因証明書や委任状は司法委書士が持参する。

  ④ 買主の必要書面
   鈴木二郎の住民票
   鈴木二郎の運転免許証
   鈴木二郎の妻の運転免許証
   鈴木二郎の認め印

「相続させる」旨の遺言と不動産登記

「相続させる」旨の遺言と相続登記
                         司法書士 永田廣次

「相続させる」旨の遺言の効力

問題
1-1 Aは、長男甲に全てを相続させるとの遺言を行った。
ところが、A死亡後、長男甲と次男乙及び三男丙は、甲乙それぞれ2分の1づつ相続するとの遺産分割協議書を合意した。
どのように登記するか。


論点1
「共同相続人に『相続させる』との遺言をどのように解釈するべきか?」

最高裁平成3年4月19日判決
遺贈ではない。遺産分割方法の指定であり、遺産分割協議または審判を経る余地はない。
直ちに、相続人甲の所有になる。
そうすると、単独申請で甲への相続登記ができる。


論点2「添付書面は何か?」

遺言書
相続人甲の現在の戸籍と本籍記載のある住民票
被相続人Aの死亡記載のある除籍謄本
で足りる。
他の相続人の戸籍等不要


論点3
「しかし、遺産中の特定の財産ではなく、相続財産の『全部』を特定の共同相続人に『相続させる』との遺言をどのように解釈するべきか?」

最高裁平成8年11月26日判決
特定財産の「相続させる」旨の集合体であるとの判断。
この場合も、直ちに相続人甲の所有になる。


論点4
「遺言の内容と異なる遺産分割協議ができるか?」

遺産分割協議を遺言で取得した取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡したものと解する(東京地裁平成13年6月28日判決)と、できる。


論点5
「遺産分割協議ができるとするならば、遺言による権利移転を中間省略登記できるか?」

できない。
権利変動の実体関係を登記に忠実に反映させるべきである。
①即時権利移転効でまず遺言書による甲への移転登記をし、
そして、②共同申請で持分を移転する。


論点6
「上記論点5の②持分移転の登記原因証明情報証書にはどのように記載するべきか?」

所有権一部移転
年月日遺産分割でよいか


論点7
「しかし、いきなり遺言の内容と異なる遺産分割協議に基づく登記がなされたら、その登記の効力はどうなるか?」

判例(S35.4.21最判)の考え方では、登記が現在の状態に合致していれば中間省略登記も有効である。
原則は中間省略登記を認めないが(中間省略登記の抹消登記を求める正当な理由を欠くから)、登記をしてしまった場合は有効である。
ただし、不動産登記法の原理原則からすると疑問の残る判例である。


論点8
「遺言執行者がこの登記を抹消請求できるか?」

東京地裁平成13年6月28日判決
抹消できない
現在の権利関係に合致するからである。


論点9
しかし、「司法書士が、Aの長男甲に全てを相続させるとの遺言を知らず、遺産分割協議書を持参され登記申請依頼を受けたらどのような態度をとればいいのだろうか?」

遺産分割協議書の内容である甲乙共有の相続登記をいきなりしても職責に反しないだろう。知らないものはどうしようもない。
登記実務は、かように行っている。



問題
1-2 Aは、長男甲に全てを相続させるとの遺言を行った。
甲は、甲単独の相続登記を行った。
ところが、A死亡後、長男甲と次男乙及び三男丙は、乙丙それぞれ2分の1ずつ相続するとの遺産分割調停が成立した。
乙が調停調書を持参し乙丙2分の1ずつの共有登記依頼を受けた司法書士は登記できるか。


答え
全てを相続させるという遺言がある以上、即時権利移転効により所有権は甲に移転する。
しかし、遺言による相続登記後遺産分割協議ができるなら遺産分割調停もできてしかるべきである。
裁判実務は遺産分割調停を認める。
登記申請できる。
但し、乙からの依頼であるので、丙の持分に対し登記識別情報は提供されない。



問題
1-3 Aは、長男甲に全てを相続させるとの遺言を行った。
次男乙は、A死亡後、遺言が発見される前に長男甲と次男乙及び三男丙それぞれ3分の1ずつ相続する法定相続を行った。
そして、甲乙丙は、甲乙がそれぞれ2分の1ずつ相続するとの遺産分割調停を成立させた。
甲が調停調書を持参し甲乙2分の1づつの共有登記依頼を受けた司法書士は登記できるか。


答え
法定相続を行うことは、保存行為として認められている。
その後遺産分割協議が行われた場合は、すでになされている共同相続登記を抹消しないで持分取得者を登記権利者、持分喪失者を登記義務者とする共同申請により持分移転登記をすることになる。
また、錯誤による更正登記をなすべきとの意見もある(東京三多摩実務協議会)。
但し、単独申請により登記申請するためには、調停調書に登記義務者の登記申請に関する意思表示の記載が必要である(丙の甲乙に対する申請意思の擬制)。





遺言の解釈

身分の変動があった場合の遺言の解釈

問題
2-1 Aは、妻甲に全てを相続させるとの遺言を行った。
その後、妻甲と離婚した。遺言の撤回はない。
この遺言を全く無視して相続登記すればいいか。


答え
遺言を無視して元妻以外の相続人が相続登記を行えばよい。
元妻は、相続人でない。
戸籍等を添付して相続登記を行えばいい。


論点1
「登記原因証明情報を作成し、遺言があったこと等は記載しなくていいか?」

撤回されたとみなされるから必要ない。

離婚や離縁の場合は、前の遺言と両立できない後の行為とみなされ、前の遺言に抵触する。したがって、前の遺言の撤回があったものとして、元妻に対する遺贈の登記は受理されない。
妻に「相続させる」とある遺言を元妻に「遺贈する」と解釈するというのでは意味が違う(別れた妻にやるというのは一般的に考えにくい)。

昭和56年11月13日最高裁判決
離縁が抵触行為になるとした判例
※民法条文
1023条1項 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす
1023条2項は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為とが抵触する場合に準用する
1023条2項は、「遺言撤回の便法」を規定している
1023条の法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずることにあり、同条2項にいう「抵触」とは、単に後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となる場合のみならず、諸般の事情により観察して後の生前処分が前の遺言と料率せしめない趣旨のもとになされたことが明らかである場合を包含する。



問題
2-2 上記遺言に基づき遺贈の登記ができるか。職責上問題がないか。


答え
上記2-1で検討したように遺贈の登記はできない。



問題
2-3 Aは、長男甲に全てを相続させるとの遺言を行った。
長男は、Aの事業を手伝っていたが、Aと大ゲンカし家を出ていてしまった。遺言の撤回はない。
長男に相続させない理論はあるか。


答え
わからない。
民法1023条2項は、「遺言撤回の便法」を規定している。
しかし、この問題は、遺言の解釈問題であり、遺言者の真意の内実がどのようなものかという問題である。そして、遺言者が現実に何を欲したかと遺言者が事情の変更を遺言完成時に認識していればどのような意思であったかを補充解釈する問題が包含される。しかし、この解釈問題は困難を極める。
本来、上記のようなケースでは、生前に遺言書の撤回か相続人の廃除をすべきである。ただし、遺言者が痴呆で判断能力がなくなると更に困難である。後見人が就任しても、後見人は遺言の撤回はできないし、廃除も実際困難だろう。

今日遺言が活用されてきたが、遺言書の条項の解釈をめぐって相続人や受遺者の間にしばしば深刻な対立が生ずる。




「遺留分減殺と登記」

問題
3-1 Aは、長男甲に財産全てを相続させるとの遺言を行った。
A死亡後、次男乙は、遺留分減殺請求を行使した。
Aの相続人は、甲と乙のみである。
Aの相続財産は、積極財産として4億3千万円の不動産、消極財産として4億2千万円の債務を有していた。
甲は、相続登記ができるか。


答え
一応できる。
 ①即時権利移転効の考え方より(H3.4.19最高裁判決)
(「相続させる」との遺言の効力は1で検討した)
 甲は、単独で甲への相続登記ができる。
  添付書面「遺言書」「相続人の現在の戸籍と本籍記載のある住民票」
「被相続人の死亡記載のある除籍謄本」で足りる。
※他の相続人の戸籍等不要
そして   
②「請求年月日遺留分減殺」を原因として持分移転登記をする(共同申請)
  
但し、③甲が相続登記をする前に遺留分減殺請求があり、乙の遺留分侵害額が確定していれば、登記実務上直接甲乙共有の登記ができる。


論点1
「遺留分に違反する遺言は有効か?」
有効
※遺留分を主張しない限り遺言は有効
※遺留分に違反する遺言は無効ではなく減殺請求に服するにすぎない
(S35.7.19最判)。


論点2
「減殺請求権性質は何か?」

形成権
減殺請求の意思表示だけで効力が生じる(S41.7.14最判)。
遺留分の侵害となる遺贈は効力を失い、目的物に関する権利は当然に遺留分請求権利者に帰属する。遺贈された目的物の一部に減殺された場合には、遺留分権利者と受贈者との間に共有関係が生ずる。


論点3
「遺留分減殺があり、相続登記がされていない場合に遺留分減殺を踏まえた相続登記ができるか?」
直接遺留分権利者のために相続による所有権移転登記ができる(S30.5.23民甲973号民事局長回答)。


論点4
「論点3の場合の登記原因証明情報はどのようなものか?」

遺言書
相続人の現在の戸籍と本籍記載のある住民票
被相続人の死亡記載のある除籍謄本
減殺請求した相続人と被相続人との相続関係を証する戸籍謄本
遺留分減殺請求の意思表示をしたこと(日付・当事者等)がわかる書類
※他の相続人の戸籍等不要
※相続と同様として農地でも許可書不要



問題
3-2 甲の相続登記ができるとして、乙の遺留分減殺請求に対し、甲乙は、どのような遺留分侵害算定を行い、どのような登記を行うべきか。

(遺留分の算定と相続債務)
平成21年3月24日最高裁判決


論点1
「乙は法律上どれくらいの割合の減殺請求ができるか?」
総遺産×法定相続分の2分の1×遺留分の割合2分の1=4分の1

民法条文
1028条1項 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
1028条1項1号 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の3分の1
1028条1項2号 前項に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の2分の1


論点2
「遺留分の算定にあたって相続債務をどう評価すればいいか?」

遺留分の侵害額は、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺産の額に加算できない。

遺言によって長男に「財産全部を相続させる」とされていた場合
特段の事情ない限り、甲に全部の債務を相続させる旨の意思表示があったものとみなす(相続人間では、当該相続人が遺言書で指定された相続分の割合(このケースでは100%)に応じて相続債務をすべて承継する)。


論点3
「相続債務は、法定相続分に従って負担するとの最高裁判決が遺留分算定に影響するか?」
「相続債務は相続人間の問題として、『遺言の財産(債務)全部を相続させる』との遺言の内容を算定に影響させるか?」

平成8年11月26日最高裁判決は、対債権者に対する相続債務の相続人負担割合を判断したもので相続債務については法定相続分に従って負担する。
各相続人は債権者から履行求められたら応じる必要がある。

平成21年3月24日最高裁判決は、相続債務をどう評価するかを判断したもので、相続債権者の関与ないから債権者にその効力は及ばない。


論点4
「債権者が乙に法定持分の相続債務を請求し支払った場合の法律関係はどうなるか?」

遺留分の算定は相続人間における問題だが、相続債務は第三者である債権者との関係にあるので、債権者から請求があった時点で、請求の内容等を斟酌してその時点で清算すべき性質のものである。

乙は、承継した相続人甲に対して履行した相続債務の額を求償し得る。


論点5
「甲単独の相続登記してその後遺留分減殺の結果の登記をなすべきか?」

3-1① → ② で2回に分けて登記するべきである。
若しくは
登記実務が認めている3-1③で直接単独申請登記する。


論点6
「いきなり、遺留分減殺の結果の登記を申請するとなると、登記原因証明情報にはどのように記載するべきか?」

遺留分減殺請求日を原因日
共同申請
所有権一部移転(侵害額に相当する持分) 4億3000万分の250


論点7
「そもそも問題の案件の相談を受けた司法書士は、いきなり遺留分減殺請求を踏まえた相続登記を行って司法書士法上問題はないのか?」

登記実務が認めているので問題ないであろう。
ただし、原則は 3-1① → ② の手続きがあることを説明した方がよい
そして、②の遺留分減殺請求を踏まえた登記する場合は 共同申請となるので注意が必要。

司法書士職務上請求書使用の可否

司法書士は、戸籍の証明書や住民票の写しを職務上請求できる。
しかし、何でも職務請求できるのでなく、依頼を受けた事件や事務が
1 司法書士の業務範囲内であること
2 業務範囲内の場合委任を受けられる事務であること
3 簡裁訴訟代理等業務関係の場合、事件に紛争性があり代理人として立証活動に必要か
等の吟味が必要である。

私なりに、職務請求できるか否か場合分けを行ってみた。
今後変化があれば、訂正します。



司 法 書 士 職 務 上 請 求 書 使 用 の 可 否 事 例

№ 事 例(1号様式) 可否 備 考

1 親から、子の戸籍等の取得を依頼された。
× 法3条業務に該当しない(ただし、委任状で取得可)

2 兄弟姉妹の戸籍等の取得を依頼された。
× 法3条業務に該当しない(戸籍法10条2に該当すれば、委任状で取得可)

3 推定相続人から、相続が発生していないが、法定推定相続人の調査を依頼された。
× 司法書士業務発生していない
たとえ委任状あっても×

4 相続人から、相続関係説明図作成のため、相続人調査を依頼された。
× 相続未発生
◯ 相続発生後で、相続登記依頼・委任状あり

5 相続人から、遺産分割協議を行うために、被相続人の相続関係の調査を依頼された。
× 相続登記を受けていないから
◯ 遺産分割調停申立

6 相続人から、相続登記を依頼されたが、未だ遺産分割協議は成立していない。相続人がほとんどの戸籍等を持参したが、遠方の足りない戸籍等の取得を依頼された。
△ 協議は成立していなくとも、何らかの相続登記はする(協議が整わなければ調停申立するという前提)

7 相続人から、相続登記を依頼され、遺産分割協議は成立している。相続人がほとんどの戸籍等を持参したが、遠方の足りない戸籍等の取得を依頼された。


8 相続登記を依頼され、持参された戸籍等を調査したところ、婚外子がいる可能性が判明し、相続人から、その戸籍等の取得を依頼された。



9 不動産登記申請の添付書面である住民票の取得を不動産仲介業者から依頼された。
× 本人から登記申請依頼されていない
◯ 本人からの登記申請依頼・委任状あれば可

10 名変登記申請の添付書面である戸籍の附票の取得を本人から依頼された。
◯ 本人からの登記申請依頼あれば可(登記必要書類だから、取得の委任状なくていい)・委任状あれば可

11 農地法5条許可を条件とした仮登記があったが、所有者が死亡した。5条許可はまだない。本登記をするため仮登記名義人から相続人調査を依頼された。
× 仮登記
◯ 裁判なら可

12 除籍謄本の取得を、請求の理由を明らかにせずに依頼された。
× 何らかの司法書士業務依頼を受けないと不可

13 公正証書遺言に基づき、父(遺言者)から子への相続による所有権移転登記にあたって、子から、父の直前の除籍謄本の他、父の出生からの除籍謄本の取得を依頼された。
× 出生からの除籍謄本(他)は不要
◯ 直前の除籍謄本は可

14 簡裁訴訟代理権に基づき貸金返還請求訴訟提起をするにあたり、被告の戸籍等の取得を依頼された。
× 戸籍は不要
◯ 被告の住所調査は可

15 簡裁訴訟代理権に基づき貸金返還請求訴訟提起をするにあたり、債務者が死亡したので、訴訟提起前に相続人と交渉してほしい。債務者の相続人の戸籍等の取得を依頼された。


16 地裁事件の書面作成を依頼され、被告の戸籍等の取得を依頼された。
× 被告の戸籍は不要
◯ 続柄を確認・証明するために書証として裁判所に提出するとき ?

17 地裁事件に該当する法律相談を受け、相手方の戸籍等の取得を依頼された。
× 相談受けること自体ができない

18 家裁事件の書面作成を依頼され、相手方の戸籍等の取得を依頼された。
◯ 書類作成上必要であるなら可
(ほぼ添付書面になる)

19 家裁事件に該当する法律相談を受け、相手方の戸籍等の取得を依頼された。
× 相談受けること自体ができない

20 簡裁訴訟代理業務の相談を受け、相手方の戸籍等の取得を依頼された。
◯ 必要であるなら可

21 不動産登記申請手続の相談を受け、相談者から戸籍等の取得を依頼された。
◯ 法3条5号相談権あり

22 不動産登記申請書作成の相談を受け、相談者から戸籍等の取得の依頼を受けた。
◯ 法3条5号相談権あり

23 不動産登記申請添付書面作成の相談を受け、相談者から戸籍等の取得の依頼を受けた。
◯ 法3条5号相談権あり

24 賃貸借契約書作成の相談を受け、戸籍等の取得を依頼された。 × 司法書士業務でない
(行政書士なら可)

25 賃貸借契約書作成の依頼を受け、戸籍等の取得を依頼された。 × 司法書士業務でない
(行政書士なら可)

26 公正証書遺言作成にあたり、公証人に提出する戸籍等の取得を依頼された。
× 公証人が受遺者等の戸籍を間違いがないか確認したいということがあるが、他のもので確認できればよい

27 金融会社から、債権回収のために債務者の住民票の写しの取得を依頼された。
×
◯ 訴訟(簡裁)の依頼あれば可

28 金融会社から、債権回収のために相続が発生しているかの調査を依頼された。
×
◯ 訴訟(簡裁)の依頼あれば可

29 信託銀行から、顧客の遺言書作成のために、法定相続人の調査を依頼された。
× まだ相続が発生していない

30 弁護士から、遺産分割調停申立のための被相続人の相続関係調査を依頼された。
×
◯ 弁護士から調停申立書作成の依頼あれば可


№ 事 例(2号様式) 可否 備 考

31 成年後見人等である司法書士が、被後見人等の相続人の調査を行うこと。
◯ 2号様式

32 成年後見人から、被後見人の相続人調査を行うよう依頼された。 △ 後見人に被後見人の相続人調査する権利・義務あるのか?

33 遺言執行者である司法書士が、法定相続人の調査を行うこと。 ◯ 2号様式
調査行う権利・義務あることが条件

34 遺言執行者である司法書士が、遺言書検認の申立のために法定相続人の調査を行うこと。
◯ 2号様式
遺言書の検認申立=死亡

35 遺言執行者から、法定相続人の戸籍等の取得を依頼された。
☓ 2号様式
◯ 司法書士業務依頼であれば1号様式で可

36 遺言執行者から、受遺者の戸籍等の取得を依頼された。
× 2号様式